ケガ別の後遺障害に関する情報
圧迫骨折を負った場合の注意点と後遺障害
1 圧迫骨折とは
圧迫骨折とは,脊椎を構成する椎体に縦方向の重力がかかり押しつぶされ(圧迫され)ることで生じるケガです。
そのため,交通事故で圧迫骨折は,車同士の事故で自動車が横転した場合や自転車及び徒歩などで事故にあい転倒し尻もちをついたことで椎体に縦方向の力がかかった場合などに生じることが多いです。
2 圧迫骨折の治療方法
圧迫骨折の治療方法は,骨折部分が安定していればコルセット等で固定しての安静となりますし,骨折部分が不安定な場合などは,手術での固定が行われます。
3 新鮮骨折と陳旧骨折とは
交通事故により腰部を負傷し圧迫骨折と診断された場合に問題となることがあるのが,当該圧迫骨折が新鮮(新しい)骨折なのか陳旧性(古い)骨折なのかという点です。
生じている圧迫骨折が,陳旧性(古い)骨折と判断された場合は,事故で負った新鮮(新しい)骨折ではないと判断されたことになるため,交通事故により生じた圧迫骨折であると認められなくなってしまうため,新鮮(新しい)骨折であることを明らかにしておくことが重要となります。
新鮮(新しい)骨折か陳旧性(古い)骨折なのか,MRIを受傷直後に撮影しておかなければ鑑別がつかないことがあります。
MRIのT2強調画像は,水分が高信号を示す(白く写る)という特性があるため,圧迫骨折が生じた急性期にMRIのT2強調画像を撮影していれば,骨の内部の出血を高信号で確認できるため,圧迫骨折が新鮮(新しい)骨折であることを立証することができます。
そのため,圧迫骨折と診断を受けたにもかかわらず,MRI検査がなされていない場合は,早期にMRI検査を受けておくことが重要となります。
4 圧迫骨折の後遺障害について
脊柱変形の後遺障害等級の種類と認定基準
脊椎の圧迫骨折は,脊椎の変形と評価され,その変形の程度に応じて後遺障害等級認定がなされており,脊柱変形の後遺障害は,以下の3段階で認定されています。
⑴ 脊柱に著しい変形を残すもの 6級
⑵ 脊柱に中程度の変形を残すもの 8級
⑶ 脊柱に変形を残すもの 11級
圧迫骨折等による脊柱変形障害が上記3段階のどの段階に該当するかは「労災補償障害認定必携」に掲載されている認定基準に従い判断されています。
脊柱変形で後遺障害逸失利益が問題となる理由
脊柱変形の後遺障害が認定された場合,交通事故の相手方の保険会社から運動機能への障害を伴っていないため労働能力喪失率が後遺障害別等級表の目安労働能力喪失率よりも低くなると主張されることがあります。
しかしながら,このような主張は適切ではないといえます。
後遺障害別等級表上の脊柱は,「頸部及び体幹の支持機能ないし保持機能及び運動機能に着目したものであることから,これらの機能を有していない仙骨及び尾骨については,「せき柱」には含まない」とされており(労災補償障害認定必携・第16版・234頁参照),頸部及び体幹の支持機能ないし保持技能及び運動機能に着目したもとのされています。
したがって,脊柱変形の後遺障害においては,頸部及び体幹の支持機能ないし保持機能及び運動機能の減少があると考えられ,脊柱変形の後遺障害によって疼痛や疲れやすくなったりなどの労働能力の喪失が生じるといえます。
そのため,脊柱変形の後遺障害でも労働能力は失われており,変形障害であることのみを理由に労働能力喪失率を低く判断することは定説でないと考えます。
脊柱変形の後遺障害では,その障害によりどのような労働能力の低下があり,仕事への影響があるのかを丁寧に主張する必要があります。
5 福井県の参考裁判例
● 福井地裁平成25年12月27日
交通事故で脊柱の圧迫骨折を負ったか否かが争いとなった
TFCC損傷を負った場合の注意点と後遺障害
1 TFCC損傷とは
交通事故で転倒し,とっさに地面に手をつき手首を痛めた,バイクを運転中に転倒し,手首を強くぶつけたなど,手を怪我した後に手首に慢性的な痛みが残る場合があります。
手首は,いくつもの小さな骨が集まって出来ていますが,手首のくるぶし側にある小さな骨と骨の間にあるハンモック状の組織(三角繊維軟骨複合体:Triangular Fibrocartilage Complex)が損傷することをTFCC損傷と言います。
この三角繊維軟骨複合体(TFC)は軟骨でありレントゲン写真には写らないため,通常の診察では見落とされることがあります。
そのため,手を怪我した後に手首の痛みがなかなか消えない,という場合はTFCC損傷を疑って専門医を受診し,臨床所見,各種徒手検査,MRI検査などを受けておくことが重要となります。
2 TFCC損傷の後遺障害認定
TFCC損傷は,⑴TFCC損傷の所見の有無,⑵症状(手首の痛み,手関節の可動域制限の程度)などをもとに後遺障害該当性が判断され,以下のような後遺障害等級が認定される可能性があります。
【自賠法施行令別表第二,第12級13号】
「通常の労務に服することはできるが,時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの」
【自賠法施行令別表第二,第14級9号】
「通常の労務に服することはできるが,受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの」
「自賠法施行令別表第二,第8級6号」
「1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」
【自賠法施行令別表第二,第10級10号】
「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
【自賠法施行令別表第二,第12級6号】
「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
3 立証ポイント
TFCC損傷は,怪我をした直後に手首の痛みを訴えてもレントゲン写真撮影のみで「異常なし」とされてしまい,相当月日が経過してからMRI撮影で発覚することが多いです。
そのため,医師が最初から細かく被害者の愁訴をカルテに記載していないと,後日,いくらMRI検査などで異常所見の存在を証明しても,自賠責では「事故と相当因果関係がない」と否認されることがあります。
したがって,⑴TFCC損傷は,専門医によるMRI検査や関節造影検査などによって,TFCC損傷の存在を客観的に証明してもらうのは大前提として,⑵怪我をした直後から手首に痛みがあったことを主治医にしっかりと伝え,そのことをカルテなどに記録してもらうことが何より重要です。
4 TFCC損傷の後遺症に対する賠償上の問題点
【素因減額の問題】
TFCC損傷は,交通事故などの外傷以外に手を酷使する職業(調理師・美容師など)によって生じたり,加齢によって生じたり,もともと腕の骨が長いことによって生じたり,と,様々な要因によって生じます。
そのため,自賠責保険でTFCC損傷が事故で生じたとして等級認定が得られた場合でも,加害者・保険会社からは,TFCC損傷の発症には被害者の素因(生まれもっての体質など)の関与が考えられるため,賠償金を減額する」との素因減額を主張されることがあります。
しかし、TFCC損傷の後遺症を肯定した裁判例には,素因減額がされてない例も多くありますので、加害者・保険会社から素因減額を主張されたとしても,具体的事情に照らした適切な反論する必要があります。